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2-6 頼れない相手 2

last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-06 19:50:26

その日の夕方。

朱莉がPCに向かってレポートを書いているとスマホがなった。相手は琢磨からだ。

「九条さん……。良かった……忙しい人だから今日中に連絡がこないと思っていたのに。それとも断りのメッセージなのかな?」

若干の不安な気持ちを抱えつつ、朱莉はメッセージを開いた。

『朱莉様。お返事が遅くなりまして、申し訳ございませんでした。本日、日本の代理店より現地のツアーコンダクターと連絡が取れました。その人物は現地在住12年目の日本人女性です。8/18~25日まで現地案内及び、通訳をお願いしました。料金はもう支払い済みですのでご心配なさらずにモルディブでの観光をお楽しみ下さい。滞在するホテル名が分かり次第、また私に連絡を下さい。どうぞよろしくお願い致します。PS:副社長には内緒で手配しましたので、ご安心下さい』

(九条さん……)

久しぶりに誰かに親切にしてもらって、朱莉は目頭が熱くなるのを感じた。

本来ならこのようなことは翔に頼むべきなのに、頼みの綱の彼は明日香と通じ、彼に頼もうものなら全て明日香に筒抜けになってしまう。頼りたい相手に頼ることが出来ないことが、こんなにも不安な気持ちになるとは思わなかった。

「でも、誰かに頼らなくても、1人で何でも出来るような人間にならなくてはいけないってことだよね?  だって翔さんと明日香さんとの間に赤ちゃん生まれたら私が一人で育てていかないとならないんだから。もっともっと強い人間にならないとね。そうだ、明日香さんに、どこのホテルに泊まるのか聞いておかなくちゃ」

自分に言い聞かせると、朱莉は明日香にメッセージを送った――

****

―21時過ぎ

「翔、朱莉さんがパスポート取得してきたわよ」

会社から帰宅してきた翔にしなだれかかるように明日香が言った。

「そうか。でも良かったよ。彼女が行く気になってくれて。これも明日香のおかげだな。ありがとう」

内心、複雑な気持ちを抱えつつも翔は明日香にお礼を述べた。

「いえ、どういたしまして。飛行機も無事とれたしね。やっぱりVIP扱いされていると、便利よね。私たちと同じ飛行機に搭乗することが出来たから」

「そうか、彼女もファーストクラスに乗るのか?」

翔の言葉に明日香は眉をひそめた。

「え? 何言ってるのよ翔。彼女はエコノミークラスに決まっているでしょう?」

「え……? 朱莉さんだけエコノミーに乗せるのか
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    「こんばんは、九条さん。偶然ですね」「はい、実はそちらのビルに用事があって来ていたんですよ。このドレスを見ていたんですか?」琢磨は青いドレスを指さすと尋ねた。「あ。は、はい。素敵なドレスだなと思って……」朱莉は頬を染めながら答えた。「確かに素敵ですね……。奥様に似合いそうですね」「いいえ。ただ見ていただけですから。それにあったとしても宝の持ち腐れになってしまいますし」「そうでしょうか? 今後必要になるかもしれませんよ?」琢磨は首を傾げ、次の瞬間息を飲んだ。朱莉があまりにも悲し気な目でワンピースを見つめていたからである。「奥様? どうされましたか? そう言えば何故こちらにいらしたんですか?」「あの……九条さん」「はい、何でしょうか?」「奥様って……私はそんなんじゃありませんので、どうか名前で呼んでいただけますか? 始めの頃のように」朱莉は悲し気に言った。「そう言えば最初は朱莉様と言っていましたね。それでは朱莉様で……」「いえ、様付で呼ばれるほどの大した人間ではありませんので、さん付けで呼んでいただけますか?」朱莉は顔を上げて九条を見た。それは真剣な眼差しだった。「分かりました。それでは朱莉さんと呼ばせていただきます」「ありがとうございます。あの……先ほどの九条さんの質問の件ですが……あの病院に母が入院しているんです」朱莉の指さした方向には巨大な病院が建っていた。「そう言えば、朱莉さんのお母様は転院してあちらの病院に移られたのですよね? それでは面会の帰りなのですね?」「はい。あの……翔さんは……どうしてますか?」「はい、副社長ならお元気にしておられますよ? 朱莉さんはもう副社長にクリスマスプレゼントのリクエストはされたのですか?」朱莉がその言葉に一瞬ビクリと肩を動かす。「もしかすると朱莉さんは副社長にリクエストされていないんですか?」琢磨は声のトーンを落とした。「あ、あの。私からリクエストなんて、そんな図々しいことは出来ませんから」「副社長から聞かれなかったのですか? リクエストの話はありましたか?」「ありません……。それに、たとえリクエストを聞かれても……その願いが叶うかどうか……」そこまで言うと朱莉はハッとなった。いくら翔の秘書だとは言え、話し過ぎてしまった。「すみません、九条さん。私、用事があるのでこ

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    「朱莉。もう鳴海さんと入籍して半年以上経つけどまだ会う事はできないのかしら?」今日も朱莉の母――洋子は面会に訪れた朱莉に尋ねた。「うん、ごめんね……。翔さんて、鳴海グループの副社長で凄く忙しい人だから、どうしても面会に来る事が出来なくて」朱莉は母の為にリンゴの皮を剥きながら俯き加減に答える。「そうなの?」「うん、だからもう少しだけ待っていてくれる」朱莉は寂しげに笑った。「え、ええ。分かったわ。ところで朱莉……」「何? お母さん」「朱莉、今……幸せに暮らしているの?」「嫌だなあ。お母さんたら。幸せに暮らしているに決まってるでしょう? はい、リンゴ剥いたから食べて?」朱莉は笑顔でに皿に乗せたリンゴを手渡した。「ありがとう、朱莉」「お礼はいいから早く食べてみて? すごく美味しいんだから。翔さんがお母さんにって買ってきてくれたんだから?」「そうよね……。いつもありがとうございますってお礼伝えておいてね?」洋子は弱々しい笑顔で朱莉に言った。「うん、勿論。ちゃんと伝えておくね」洋子は一緒にリンゴを食べている娘の横顔をじっと見つめながら思った。朱莉は幸せに暮らしているのだろうか? とても今の様子を見る限りは幸せに暮らしているとは到底思えなかった。むしろ缶詰工場で働いて1人暮らしをしていた時の方が、生き生きとして見える。(朱莉は誰にも相談できない様な重大な辛い秘密を抱えているのかもしれないわ……)しかし、とてもそれを確認することは出来なかった。何故なら少しでも朱莉に鳴海翔のことを尋ねようとすれば悲し気な顔を見せるのでとても聞きだす気にはなれなかったのだ。2人の結婚生活については、この話が出た時からずっと疑問に思っていた。(朱莉……もしかして貴女……私の為に鳴海家に身売りしたの……?)しかし、朱莉に尋ねることが出来なかった――「それじゃ、また明日来るね。お母さん」「ねえ、朱莉。何も毎日面会に来なくてもいいのよ? 大変じゃない?」朱莉が部屋を出ようとした時、洋子は声をかけた。「ううん。そんなこと無いよ。毎日お母さんの顔見ないと安心出来無いから。それじゃまた明日ね」笑顔で手を振ると、朱莉は病室を後にした。****「ふう……。今日もまたお母さんに嘘をついちゃったな」イルミネーションが美しい町中を歩きながら朱莉は溜息をついた。朱莉

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-15 カウンセラーのアドバイス 2

    「どうした? 琢磨?」「翔! お前、本気でそんなこと言ってるのか? 尋ねる相手と言ったら朱莉さんに決まっているだろう!?」「あ……ああ。そうか……朱莉さんか……。頼む、琢磨。お前から朱莉さんに聞いて貰えるか? 彼女にプレゼントしたいからと言ってさ」「翔! 俺には今付き合ってる彼女はいないぞ?」琢磨は睨みつけた。「そんなのは勿論分かってるさ。ただ……」「何だよ? 今まで黙っていたけど……お前、朱莉さんとは連絡どうしてるんだ?」琢磨の射抜くような視線に翔は溜息をついた。「実は初めて明日香をカウンセラーに見て貰った時に言われたんだ。明日香を少しでも安心させるように、当分の間朱莉さんとは連絡を一切取らないようにって。そのことは最初に言われた時に、朱莉さんには説明したよ。悪いけど、暫く連絡を取ることは出来ないって。まあ、今のところ親族との顔合わせも予定していないし会長も結局年内には帰国できないことが決まったしな。朱莉さんも俺達と関わらない方が気楽だろうから、いいだろう」「何だって? そんな話は初耳だぞ? 明日香ちゃんには内緒でもう一度カウンセラーに相談してみろよ。あれから3カ月は経過している。?もうすぐクリスマスなんだし、このままにしておいていいはずはないだろう?」「……」「何故そこで黙るんだよ?」「いや……一応ボーナスの上乗せは考えているんだが……それだけではまずいだろうか?」翔の言い分に琢磨は唖然とした。「本気で言ってるのか? お前と明日香ちゃんはこれから2人だけのクリスマスのイベントが結構入っているじゃないか? それなのに朱莉さんは? 偽装妻であることがバレないように極力親しい人達との連絡も取らないようにって最初に結んだ契約書の中にあったよなあ? 朱莉さんだけ寂しい思いをさせて、自分たちはクリスマスを楽しむつもりか?」「琢磨……」(琢磨の言う事は尤もだ。朱莉さんとは書類上とは言え、正式な妻であるには変わりない。だが、明日香の嫉妬から守る為に放置してきたのは良く無いかもしれない。俺としては暫く朱莉さんとの連絡を絶つことが、彼女にとっても最良の方法かと思っていたのだが……)「分かったよ、琢磨。明日にでもカウンセラーの女性に朱莉さんと連絡を取り合ってもいいか確認してみる」「ああ、是非そうしろ」琢磨は残りのコーヒーを一気に飲み干した。「

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-14 カウンセラーのアドバイス 1

     季節が移り変わり、いつの間にか12月になっていた。休憩時間、オフィスの窓から翔と琢磨は外の景色を眺めながらコーヒーを飲んでいた。「世間はもうクリスマス一色だな」琢磨は翔を見ながら話しかけた。「ああ…本当に早いものだな…」翔は窓の外をじっと見つめながら何か考えごとをしているように見える。「どうした? 翔。何考えているんだ?」琢磨は翔の様子に気付き、声をかけた。「あ、ああ……。実は明日香からクリスマスプレゼントは今年は俺が選んでくれって言ってきて困っているんだ。20代の女性が好むプレゼントって言うのが俺には良く分からなくてな……」「へえ~。いつもなら毎年明日香ちゃんが自分の方からリクエストしてくるのに随分変わったな? これもカウンセラーのお陰じゃないか?」「ああ……。そうかもな。琢磨、ありがとう。お前のアドバイスのお陰だよ。あのまま何もしないで放っておけば今頃明日香はどうなっていたか分からないよ。それにカウンセラーのお陰で、明日香は家政婦も受け入れてくれたしな」翔は笑顔で言った。今、明日香と翔の元には月曜~金曜日まで家政婦協会からベテラン家政婦が派遣されて来ている。その人物もカウンセラーからアドバイスを受けて、条件にかなった人物を探し出し、専属の家政婦をやって貰っているのだ。家政婦として雇った相手は60代の女性で、若い頃は秘書として働いていた。きめ細やかな所まで行き届くように世話をしてくれる素晴らしい家政婦であった。カウンセラーと家政婦のお陰で翔の負担はあの頃とは比べ物にならない位に楽になった。カウンセラーと家政婦には当然翔と明日香の関係を……そして朱莉と言う偽装妻の存在も打ち明けていた。その際、絶対に誰にも口外しないことを条件に告白していた。そのことをカウンセラーと家政婦に伝えた所、自分たちをあまり見くびらないでくれと叱責されたほどであったのだ。「琢磨。本当に感謝している。お前がいなければ、今頃どうなっていたか分からないよ」すると琢磨が肩をすくめる。「あのな、俺は別に明日香ちゃんの為だけを思ってアドバイスをしたわけじゃないぞ? お前のことや、それに朱莉さんのことを心配して言ったんだからな?」「ああ。勿論分かってるさ」苦笑する翔。「あ、そう言えばさっき明日香ちゃんへのプレゼント何がいいか考えていたよな?」「ああ。そうだ」

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-13 琢磨の提案 2

    「ふう……。今回は父のお陰で助かったな……。いや、そんな言い方をしては駄目か」翔は口元に笑みを浮かべると考えた。(それにしてもおかしい。妙にタイミングが良すぎだ。偶然だろうか……?)「まさか……な。だが……何かおかしい」翔は念のために琢磨に電話を入れた。何回かの呼び出し音の後、琢磨が電話に出た。『もしもし。どうした翔?』「こんな時間に悪い。実は先程会長から電話が入ったんだ。マレーシア支社でトラブルがあったとかで、そっちに向かわなくてはならなくなったと。だから今回の会長の帰国は取りやめになった」『ああ、そうか』「そうかって……やけにお前、あっさりしてるな? もっと驚くかと思ったが」『そうか? でも予定が変わるのは別におかしな話じゃない。いつものことだろう?』「いや、いつもと違って妙な感じがある。……琢磨、正直に答えてくれ。お前……何かしただろう?」『何かって……何をだ?』「おい、とぼけるな。お前……父に何か話をしたんじゃないのか?」しかし、中々返事が無い。「琢磨、黙っていないで答えろ』『分かったよ……。そこまで気付いているなら話すよ。実は社長に明日香ちゃんのこと……伝えたんだよ』「! おまえなあ……! 何か余計なこと話したりしていないよな?」『ああ、安心しろ。明日香ちゃんがお前と一緒に暮らしてるなんてこと、口が裂けても話していない』「それじゃ……何て言ったんだ?」『最近、明日香ちゃんが精神面で弱っている。この状況で会長と会った時、明日香ちゃんがどうなるか心配だって相談したんだ。言っておくが俺がこの話をしたのは明日香ちゃんの為じゃない。お前と朱莉さんを心配してのことだからな?』「俺と朱莉さんの為……?」『そうだ。朱莉さんの件からずっと明日香ちゃんの精神状態がおかしくなったのは確かだ。だが、それは朱莉さんには何の落ち度もない。むしろ彼女は俺達の計画に巻き込んでしまった哀れな被害者だ。それに翔、お前はある意味自業自得ではあるが……ここまで明日香ちゃんの精神状態がおかしくなるとは思わなかったんだろう?』「ああ……」偽装結婚の話は明日香と何度も話し合って、互いが納得して決めた事であったはず。なのに朱莉という書類上だけの仮の妻が現れた途端、明日香はおかしくなってしまった。いや、正確に言えば朱莉の美貌を目の当たりにした途端、明日香が

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-12 琢磨の提案 1

     翌朝――オフィスで琢磨は翔からの電話を受けていた。「ああ、大丈夫だ。こっちのことは心配するな。……何言ってるんだ。そんな事は今更だろう? ……うん。急ぎの案件はこちらで処理して、後でメールするから安心しろ。なあ、翔……。これは俺からの提案なんだが……。え? ああ……そうか。悪かったな。それじゃ電話切るぞ。じゃあな」ピッ琢磨は翔からの電話を切ると溜息をついた。「翔……。俺は明日香ちゃんよりも……お前の身体の方が心配になってくるよ……」(何とか翔の負担を少しでも減らしてやらないと……)琢磨はPCのメールを立ちあげると、メッセージを打ち始めた――****「ああ~。やっぱり家はいいわねえ……」明日香は伸びをしながらリビングのソファに座った。「明日香。今日は家でおとなしくしているんだぞ?」荷物を持って後から部屋へ入って来た翔は明日香に声をかけた。「はいはい、分かってるわよ」明日香は背もたれによりかかりながら返事をした。その時翔が着替えを持ってバスルームへ行こうとしているのに気が付き、声をかけた。「あら? 翔。シャワー浴びるの?」「あ、ああ……。結局昨夜はそのまま着替えもせずに寝てしまったからな」「あら? 私のせいだと言いたいのかしら?」明日香はジロリと翔を睨む。「何故そう思うんだ?」「だって今貴方がシャワーを浴びるってことは、私がこの部屋に昨夜帰らせずに着替えを取りに戻れなかったからと言いたいんでしょう?」「別に俺は何も言っていないぞ?」翔は明日香の隣に座るった。「だいたいねえ……。私が入院になったって聞いた段階で、一緒に病院に泊ろうって考えるのが筋じゃないの? 最初からそう考えていれば、自分の着替えを持って来ようと言う考えに至ると思わない?」「あ……」翔は唖然としてしまった。まさか明日香がそこまで考えていた等想像もつかなかった。「そうだよな……言われてみればそのとおりだった。お前が入院したなら、付き添い位考えれば良かったな。明日香。俺の考えが至らなくてすまなかった」明日香の頭を自分の肩に抱き寄せる翔。「いいのよ……。分かってくれれば。だから、翔。お願い……絶対に私を1人にさせないでよ?」明日香は翔の胸に顔を埋めると懇願する。「ああ、分かってるよ。明日香……お前を決して1人にはしない……」(今の明日香はあの時と

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